今月の市村清
Monthly
“今月の市村清”―2023年10月編―
「リコピー101」をはじめ3製品が未来技術遺産に登録
~陰で支えるサプライ技術~
このほど、国内初の露光・現像一体型の卓上複写機「リコピー101」と湿式静電複写機「電子リコピーBS-1」、乾式PPC「リコピーFT4060」の3製品が独立行政法人国立科学博物館の重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)に登録されました。9月12日に国立科学博物館にて登録授与式が行われました。
市村清は理研光学工業(株)の創業から2年程の1937年11月、王子工場を建設しました。鉄筋4階建て(一部5階)のガラス張りの建物は当時としては近代的な工場で、ここを感光紙とカメラの生産拠点としました。王子工場の1階に設置された塗布機は700m/時の能力を誇り、これまでの感光紙生産の常識を覆すもので、1941年には全国の感光紙生産量の90%を占めるなど、シェアを独占しました。
戦後5年を過ぎると、国内景気は活況を呈し自動車産業や工作機械産業を中心に感光紙の発注が急増。家を建てるのにも図面が要るので感光紙の需要は急伸しました。理研陽画感光紙はアンモニア特有の臭いがあるほか、図面などの多量のコピーに時間がかるというデメリットもありました。そこで、市村は臭いがなく、使いやすく連続的に現像できる湿式現像法の開発を命じ湿式感光紙と現像剤を開発。のちにリコピー時代を支えるサプライ製品の充実を図りました。
アメリカ出張の際に訪問した会社で卓上複写機とシートになった感光紙をみかけた市村は、「これだ! 主として工業用目的で使われている“焼付機“は事務用複写機に変身しうるのだ。これが事務機として売れたら、感光紙市場はさらに拡大するに違いない。」と。市村は帰国後、ただちに卓上複写機の開発を命じ、納期は3ヵ月という異例の短さ。手本になるのはドイツ製の小型複写機だけという状況で開発がスタートしました。
事務机の横に置くのだから、無臭の湿式現像でなくてはならない。国内初の無臭の湿式現像のための湿式感光紙と現像剤を完成させ、その後、1955年に発売した国内初の湿式ジアゾ複写機は「リコピー101」と名付けられました。事務文書や伝票の複写が手軽にできるようになり事務作業の画期的な変革をもたらし、オフィスの機械化時代が幕を開けました。
サプライ技術はともすれば複写機の陰に隠れて外から見えにくく、しかも開発には時間がかかり、未知のことを探索しなければならない場合が多い。陽画感光紙の製造・販売からスタートしたリコーの「リコピー101」の成功は、市村が先んじて無臭の湿式現像法に取り組んだことが功を奏したと言えるでしょう。