今月の市村清
Monthly
“今月の市村清”―2025年2月編―
創業の精神に還れ
―人間性豊かな立派な社会人になって欲しい―
先月の「今月の市村清」では1965年、リコーが無配となった年の年頭挨拶の内容を紹介しましたが、負けん気の強い市村にとってこの年のことは生涯忘れがたい経験であったと思います。その3年前のこと。創立十周年を迎えた三愛石油(現 三愛オブリ)の祝宴の挨拶で市村は三愛石油の社員を前に日頃の謝辞を述べるとともに「創業の精神に還れ」と檄を飛ばしました。リコーも三愛石油も順調に業績を伸ばし事業拡大をしてきたものの、市村には「現状に甘んじてはいけない」という予感めいたものがあったのかもしれません。
「さて諸君、この十周年を機会にわれわれの仕事の内容について、冷静に再検討する必要があると思います。ただ事故のないよう注意し、このままの体制でやってゆけば十分ではないか。そうした現状維持の見方も確かに成り立つと思います。しかし一歩深く掘り下げて考えてみたとき、このような消極的な考え方はあまりにも芸がなさすぎる、面白味も張り合もないということです。十周年を転機としてもう一度、創業の精神に立ち還って出直す必要があるのではないか、ということです。社会的にも一流会社として非常な信用を得てきた。しかしそれに甘んじ、満ち足りた思いで安閑としている人間にはなってもらいたくないと痛感しています。どんな苦難にも耐え抜く犠牲と献身、真撃敢闘の精神をもって新しい市場を開拓する。そして事業を泰山の安きに置く。難事といえども積極的に打開してゆく。この精神はとりもなおさず創業の精神に還ることを意味します。(中略)
明るく楽しい社業を築くには厳しい試練と苦難に耐える力を養うことが必要です。私はいい加減な会社の運営ならむしろやらん方がいいという主義です。私は諸君のために今後とも大きく仕事をやってゆきたい。そのために立派な業績をあげ、内容のいい会社として社会、公共のために残したい。そこに携わっている従業員の諸君が人間性の豊かな立派な社会人となって欲しいと願っています。どこに出ても誰からも尊敬され、慕われる人間になって欲しい誠実で仕事に熱意をもつ社員であって欲しい。セールスならば良い習慣と技術を身につけお客様に信頼される人、経理なら経理の面で銀行、官庁その他の折衝において誰にもひけをとらない能力をもち、人から尊敬され、人柄を買われる人であって欲しい。人から悪くいわれたり軽蔑されたりすることのない人になって欲しい。このようにして社風ができてゆけば会社は自然に伸びてゆくのです。私は小さい自我の損得を計算して事業をやっているのではありまぜん。
諸君はこの会社の将来を担って立つ人々ですから諸君がこれらの点に目覚めこの十周年を転機として、大きな躍進の出発点として私のこの要請をかみしめて頂きたい。」と。
奇しくも2月6日はリコーの創立記念日であり三愛オブリも6月9日に創立73年を迎えます。この挨拶から63年もの歳月が過ぎました。リコー三愛グループで働く人たちが人間性豊かな社会人となり自身の成長と会社の成長が重なり合うことを願っていることでしょう。