今月の市村清
Monthly
“今月の市村清”―2022年5月編―
市村清から子どもたちへのプレゼント
~声の複写機“リコーシンクロファックス”を贈る~
5月5日はこどもの日。市村清自身に子どもはいませんでしたが、その分、従業員を家族のように思い接していました。市村の子ども好きは、故郷の小学校への講堂寄贈や青少年育成のための佐賀県体育館の寄贈、さらには社員の葬儀に参列した際、まだ小さな息子が泣く姿を見て号泣したというエピソードなどからもうかがい知ることが出来ます。
1959(昭和34)年9月26日、中部地方を襲った伊勢湾台風は各地に多くの被害をもたらしましたが、特に名古屋市及びその近郊の被害が大きく、名古屋市の死者・行方不明者は1900人を超え、家屋の全半壊は10万戸以上にもなりました。
この直後の10月、大阪市の春日出中学校の生徒たちが修学旅行で名古屋を通った際、汽車の窓から台風見舞いの激励文の束を落としていきました。その一通を受け取った名古屋市の牧野小学校の女子児童が、差出人の女子生徒にお礼の手紙を書いたことをきっかけに、ふたりの文通が始まりました。やがてそれは両校全体の文通にまで発展し、時には「声のたより」も届けられて、交歓は一層深まっていきました。
そして、何よりこの「声のたより」に一役買ったのが『リコーシンクロファックス』でした。
“声の複写機”といわれたシンクロファックスは、磁気記録膜が塗ってある紙(シンクロシート)に音を吹き込んだり再生したりするもので、当時、革新的機械として注目されていました。
しかし、牧野小学校には機械がなかったので、理研光学(現リコー)名古屋支店の機械を借りて、録音したり再生していたのです。
たまたま社用で名古屋支店に立ち寄った市村は、社員からこの文通の話を聞いてすっかり感動し、リコーシンクロファックス一台を牧野小学校へ贈ることにしました。もちろん子どもたちは大喜び、さっそく運動場でオルガンの伴奏にあわせ校歌を唄いその様子を録音、春日出中学校に送ることになりました。
後日、このエピソードが毎日新聞や中部日本新聞などに掲載され、その紙面で牧野小学校の校長は、「春日出中学から歌を聴かせてくださいという便りが来たときは声を送る機械がないので困り、理研光学にお借りしました。教育的にも良いことですし、なんとか機械を買いたいと話していたところでした。 子どもの友情がこんなに大きく結びつき、皆さまの善意に感謝しています。」とお礼を述べ、市村は「話を聞いてとても美しいことだと思い寄贈したが、子どもたちの喜ぶ顔を見れてうれしかった。」と挨拶しています。
シンクロシートに校歌を吹き込む児童たちを見つめる市村の顔にも、うれしさがいっぱいあふれていました。