今月の市村清

Monthly

“今月の市村清”―2021年2月編―

雪の日の人情

―社員の思いやりが、人の心を動かした—

昨年、日本海側を中心に観測史上最大の積雪量が記録され、今年に入ってからも大雪に見舞われている地域もあるようです。今年の冬は未だ拡大が続くコロナウイルスに加え、寒さとの戦いにもなりそうです。

1945年終戦。当時、理研光学(現在のリコー)の本社は浅草橋にありました。市村清は、今後日本の中心は銀座になると推測し、新たにサービス業への進出を目論んでいました。
そこで銀座界隈の土地を所有していた安田銀行と何度も折衝し、銀座の一等地(現在の銀座4丁目角)に65坪の土地を手にすることが出来たのですが、建物の建設に着手してみるとどうにも狭く、土地を広げるより仕方がありません。
西隣の土地の所有者は佐野屋といって、江戸時代から続く足袋屋の老舗で、皇后様の御用も務めている名家でした。当主の老未亡人の元に何度も足を運び譲ってくれるよう懇願しましたが、頑として首を縦に振ってくれません。そうこうするうち、季節は夏から秋を過ぎ、冬になっていました。
ある大雪の日、市村は“もう一度だけ頼んでみよう。こんな日に行けばいくらか自分の熱意が分かってもらえるかもしれない”と訪ねてみますが、老未亡人は顔も見せてくれませんでした。
ところが翌日、浅草橋の市村の事務所に老未亡人が一人でやって来て、こう言いました。
「今日はきっぱりとお断りをするつもりで伺いましたが、たった今、私の考えが変わりました。土地はあなたにお譲りします!」
「それはまた、急にどうしたわけですか?」
老未亡人によると、雪の中を老体にムチを打ってやっとのことで事務所にたどり着き、足元は溶けた雪と泥でビチャビチャ。事務所に入るのを躊躇っていると、それに気付いた受付の女子事務員が「いらっしゃいませ」と、どこの誰とも分からない自分に、彼女が履いていたスリッパを脱いで自分の前にそろえ、彼女自身は裸足になりながら「どうぞ、お履き替えください」と言って、いたわるように体を抱えながら階段を上げてくれた、ということでした。
この瞬間、嵐のような感動に打たれた老未亡人は
「こんな気遣いの出来る素晴らしい事務員のいらっしゃる市村さんの会社なら、無条件で信用出来ると思ったのです。先祖も許してくれるでしょう…」
と、一転して市村の願いを受けてくれたのです。

46年夏。食料品店の“銀座三愛”が華々しくオープンしました。
社員の思いやりが当主の心を動かし、銀座のど真ん中に“三愛”が誕生したのです。
現在は円筒形の“三愛ドリームセンター”に姿を変えていますが、今でも銀座のシンボルとして君臨しています。
“三愛”が誕生した裏に、実はこんな感動の秘話が存在していたのです…。

画像:雪の日のエピソード
まんが・市村清物語」より出典
今日のひとこと
〜市村清の訓え〜


今日のひとこと 〜市村清の訓え〜