今月の市村清
Monthly
“今月の市村清”―2020年7月編―
市村清、子どもたちに生後3カ月のツキノワグマを贈る
―市村清が武蔵野一中の子どもたちにツキノワグマ(生後3カ月)をプレゼント—
世の中は未だ新型コロナウイルスの終息が見えず、不安はぬぐい切れませんが、そんな時だからこそ、今回はほっこりした話題をご紹介したいと思います。
市村清のエピソードとしてはあまり知られていませんが、市村清は過去に、北海道の知人から生後3カ月ほどのツキノワグマ(メス)を贈られ、一時、馬込の自宅の庭で飼っていたことがありました。当時の様子を知る人によると、確かに庭の一画に檻に入れられ飼われていたクマを見たことがあるそうです。しかし市村は、「自分で飼うよりは多くの人に楽しんでもらった方がよい」という気持ちから、一番かわいがってくれそうな“飼い主”を読売新聞社に委託して公募することにしました。その後、読売新聞の読者コーナーには『クマの子あげます』と紹介文が掲載されました。その反応はというと、次の日から電話、手紙、ハガキなどによる申し込みが約180件にものぼったそうです。
協議の結果、武蔵野一中(現在の武蔵野市立第一中学校)にクマの子がプレゼントされ、生徒一同大喜び。さっそくこのクマの名前を生徒から募集し、たくさんの候補の中から最終的に「つき子」と決まり大変な人気者になったそうです。
1962年7月7日付の読売新聞には、つき子と生徒とのその後の様子について当時の中学校の先生から次のように掲載されました。
『わたしたちの学校に「月の輪グマ」が読売新聞社の斡旋と理研光学社長市村さんのご好意で届けられてきた時は大騒ぎだった。絵や写真で知ってはいても実物をすぐ目の前にした経験は少ない都会育ちの子どもたちが多いから無理もない。“クマちゃんの新入生”は大変な人気で、エサを与えるのも大仕事。飼育班の子どもたちが持参のコメなどを朝食用にと決めたのに、リンゴやバナナ、クマ用の“特別弁当”まで持ってくる子どもたちもいててんやわんや。夕食用に子どもたちの昼食の残りを集めて与えることにしてあったのに、わざと昼食を残す子が続出して“新入生”のところへかけつけるから、おかげで朝、夕二回の食事は一日三食になってしまった。さすがの“新入生”も食べ過ぎてゲリを起こし一キロほどやせてしまった。しかしそれもすぐに治り環境にすっかり慣れて現在“新入生”は落ち着いている。子どもたちが集まってくると立ち上がって前足を胸に当て「チョウダイ」の芸当もする。クマに寄せる子どもたちの愛情がやがて生あるものへの愛情となり、人類愛へとつながる道ともなればこんなうれしいことはない。こんな夢も遠くはない、とわれわれ教師は思うのだが、クマの飼育で喜びを持った子どもたちが理科の学習に励みだしたのは事実。“理科は弱いんだ”としり込みしていた子どもたちも、進んで先を急ぎ始めたからふしぎである。(武蔵野市立一中教師・松永政一)』
たくさんの生徒たちの愛情を受けて、つき子もさぞ幸せだったことでしょう。
“人を愛し”の三愛精神を生涯貫いた市村清流の、命の尊さを子どもたちに教える授業だったのかもしれません。