市村清ゆかりの人物
  田中虎三郎

ゆかりの人物「田中虎三郎」について
ご紹介します。

田中虎三郎プロフィール

生没年1867年~1935年

職業弁護士

父・豊吉の親戚にあたり、幼少から世話になった人物。上海での資金横領疑獄事件の際も帰国後の控訴審で市村の弁護をした。

市村の人生の岐路に影響を与えた人

田中のおじさんはボクの父さんと「はとこ」。ボクを我が子のようにかわいがってくれて、気にかけてくれた人。弁護士としてボクのピンチを救ってくれたし、助言もしてくれる尊敬するおじさんなんだ。

「清くん、大河内博士とはいつか衝突するよ!」心配は現実となり・・・

田中虎三郎は佐賀出身の弁護士で、佐賀法曹界の大物とも言われていました。1867(明治元)年生まれで、市村清の父・豊吉とは一つ違いのふたいとこ(はとこ)同士です。
市村から「田中のおじさん」と呼ばれて慕われ、佐賀中学時代には家にもよく遊びに来ました。田中の妻・ゆきも市村をとてもかわいがっていましたから、田中の家は市村にとってまさにオアシスのような場所でした。
市村が佐賀中学を中退したとき、田中は我が子のことのように心配したものでした。
10年ほどの月日が流れ、1922年、共栄貯金銀行東京本店から中国の大東銀行へ転属した市村は、破竹の勢いで業績を上げ、支配人代理にまで昇格しました。しかし、1927年春に起きた日本の金融恐慌のあおりを受けて大東銀行が閉鎖され、市村は職を失いました。しかも、身に覚えのない横領の嫌疑で逮捕されて約5カ月の監房生活を送り、懲役1年6カ月という不名誉を携えての帰国となったのです。
佐賀に戻った市村から相談を受けた田中は、直ちに長崎地裁に控訴の手続きを行い、難なく無罪放免に。市村にとって田中は最も頼りになるおじさんでした。
さて、職探しを始めた市村は、父の実弟から進められた富国徴兵保険の外交員の仕事に気持ちが動きました。サラリーマンではなく、自分の力を試せるような独立した仕事がしたいと考えていたからです。
「田中のおじさん、おばさん、保険外交の仕事をやろうと思うんです」
「えっ、保険屋さんになるの? おばさんは嫌いよ」
「おじさんも好きじゃないな。人から嫌がられるし、難しい仕事だよ。君にできるかな?」
「やる以上は一生懸命やります。自信もあります」
「一体どこでやるつもりなの?」
「熊本です。知人のいない土地で、自分の力を試してみたいんです」
「それだけの覚悟があるのなら、大丈夫だろう。頑張ってみなさい」
市村の負けず嫌いで一途な性格を理解していた田中は、彼ならやり切るだろうと思ったのです。
さらに月日は流れて、熊本での保険外交や佐賀での富国徴兵保険監督の仕事を成功させた市村は、理研感光紙の九州総代理店「吉村商会」(名義保証人は田中虎三郎)の店主に転じ、販路を九州から朝鮮や満州にまで広げて業績を伸ばしていました。
1933年の初め、市村の元に理化学研究所所長・大河内正敏博士から“理研の感光紙部長として招きたい”という手紙が届きました。
「田中のおじさん、天下の理研から誘いがきたんですが、どう思いますか?」
「大河内博士は殿様の出で、だいぶわがままなところがあるようだし、君も一本気な性格だから、いつか衝突するんじゃないかな? 僕はあまり賛成できないな」
市村は熟考の末、田中の忠告に従って誘いを断りました。ところが、大河内所長からの手紙はその後も続き、使者まで訪ねて来るようになって、ついに受諾を決意したのです。感光紙部長に就任した市村は、大河内所長の期待以上の業績を上げ、事業家としての階段を一気に駆け上がって行きました。
1935年、田中虎三郎死去、享年68歳。
それから7年後、田中の危惧していたことが現実になりました。
1942年の正月、大河内所長と市村は新年会の席上で対立。これをきっかけに、市村は大河内所長とたもとを分かち、独立の道を歩むことになったのです。
「私の言った通りになったではないか。でも、独立心の強い清君にとっては良い選択だったかもしれないなあ」、そうつぶやく田中の声が聞こえてきます。
なお、田中家と市村の絆は、それからも続きました。
虎三郎の養子・三四二(みよじ)(1901〜1945)は、市村が1934年に満鉄攻略に成功した後、理研感光紙新京支店の支配人を務めるなど、理研の仕事に関わりました。三四二の息子・道信(1929〜2019)は、理研光学工業(現 リコー)に入社後、一貫して営業畑を歩み、その辣腕ぶりから市村の愛弟子とも言われました。市村没後の1970年にリコー最年少取締役に就任、さらに三愛の社長や相談役などを歴任し、リコー三愛グループの発展に寄与したのです。
田中三四二氏一家、幸恵夫人と(1933年)
田中三四二氏一家、幸恵夫人と(1933年)

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田中虎三郎

以下のページでも田中虎三郎について知ることができます。
今日のひとこと
〜市村清の訓え〜


今日のひとこと 〜市村清の訓え〜